サブダクション帯(以下、サ帯)の深さが、300km以上ある島弧上の玄武岩の成因究明のため、サ帯の深さが、150kmから400kmにわたる近畿と中部の火山岩類を研究した。試料は、火山フロント付近=子持、御飯など(サ帯の深さ<200km)、背弧側=田倉、神鍋、玄武洞など(サ帯の深さ〓400km)および中間位置=妙高、黒姫、御缶、経ヶ岳などの火山と上野玄武岩類(サ帯の深さ=200〜300km)から得たものである。 EPMAによる斑晶の鉱物学的識別と全岩液相濃集元素組成のMORB規格化パターン等に基づく地球化学的識別により、(1)サ帯が300kmより深い位置の玄武岩類は、岩石系列と関係なく、マントルプリュームに関係したマグマ根源物に由来し、(2)火山フロント付近の玄武岩類は典型的な島弧型玄武岩マグマ根源物に由来し、(3)中間位置のうちでサ帯の深さが約250kmの場所の玄武岩類は、約2Maにはプリュームに由来し、約1Ma以降は島弧型根源物に由来すると結論された。要するに本州中央部でサ帯が300km以深の位置の玄武岩質岩石は、島弧上に分布するにもかかわらず、マントルプリュームの活動で形成されたものと判明した。 上の結論と既存の全岩KーAr年代データとから、次のシナリオが描ける。(1)両白山地の下には約5Ma以降マントルプリュームが存在し続けた。(2)フィリピン海プレートの運動方向の変換によるマントル対流の乱れのため、約3Maにそのプリュームは東方に流され、2Ma頃に上野玄武岩類を噴出した。(3)その後マントル対流は定常状態に達し、その流れのためにプリュームは再び両白山地の下に押し戻された。 このモデルは、島弧下のマントル対流の流れの向きを直接推定できる可能性を持つが、その精密化にはより多くの岩石の年代値を得る必要がある。
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