一般に人工材料を骨の欠損部に埋入すると、生体はこれを線維性の被膜でとり囲み、周囲の骨から隔離しようとする。しかし、セラミックスの中にはきわめて特殊にこの種の線維性被膜を形成せず、周囲の骨と直接接し、それと自然に強く化学的に結合するものがある。それらは生体活性セラミックスと呼ばれ、骨修復材料としてきわめて有用であるが、その生体活性を支配する因子については詳しいことがわかっていない。本研究は、数種の生体活性及び非生体活性なセラミックスを、無機イオン濃度だけをヒトの体液に等しくした水溶液あるいはそのイオン濃度を変化させた水溶液に浸漬し、その表面構造変化をフーリエ変換赤外反射分光法、薄膜X線回析法、走査型電子顕微鏡観察などを用いて調べることにより、生体活性を支配する因子を明らかにする手がかりを得ることを目的とする。その結果、次のことが明らかになった。 i)従来から生体活性を示すことが知られていたBioglass【○!R】、結晶化ガラスCoravitol【○!R】、水酸アパタイト焼結体、本研究者らが新たに生体活性を示すことを見い出したCaO・SiO_2ガラス、MgOーCaOーSiO_2ーP_2O_5ガラス、それを加熱処理して種々の結晶を析出させた結晶化ガラス3種のいずれも、擬似体液中でその表面に骨の中のアパタイトと組成及び構造がよく似たアパタイトの薄層を形成した。しかし、MgOーCaOーSiO_2ーP_2O_5系に少量のAl_2O_3やTiO_2を添加した組成の生体活性を示さない結晶化ガラスはこの種のアパタイト層を形成しなかった。ii)上記のアパタイト層は体液に近いイオン濃度の水溶液中でのみ形成された。iii)従って、セラミックスが生体活性を示すための必須条件は、生体内でその表面にアパタイト層を形成することであり、このアパタイト層形成の有無を擬似液中で調べることにより、そのセラミックスの生体活性を予測することができると結論される。
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