研究概要 |
本研究は光合成の初期過程での光電荷分離機構を模した分子レベルでのフォトダイオードを作ることを目的としている。原理は2枚の透明電極の間に電子受容体(A),増感色素(S),電子供与体(D)を電極面に垂直方向にこの順に配置し、Sの光励起により生成した電子と正孔をそれぞれAとDに渡し、ベクトル的に電荷分離し、さらにこれらを電極で取り出し光電変換を達成するものである。この空間配置は、A,S,Dの機能部位を有するそれぞれの両親媒性化合物をLB法で順次積み重ねるか、1分子内にA,S,D部位を有する両親媒性化合物を単分子膜として向きを揃えて並べて達成する。 本年度はSとして励起寿命の長いピレンとルテニウムトリスビピリジン錯体を選び、LB膜積層系では、Aとしてピリジニウム,アントラキノン,ビオロゲン,テトラシアノキノジメタン部位を、Dとしてフェロセン部位を有する膜分子を用いた。分子内単分子膜系では、A-S-Dとしてビオロゲン-ピレン-フェロセン系を合成し、その光電変換能を検討した。後者の三組分子ではそれぞれの部位間の距離はメチレン鎖の長さにより調節した。透明電極としては、石英板上に金属を蒸着したものを用いた。安定な蒸着膜を得るために超高真空蒸着装置を購入した。光電荷分離効率を向上させるためには、i)A-S、又はD-S間の距離、ii)励起色素の酸化あるいは還元電位に対するA又はDの標準酸化還元電位、が如何にA-S,D-S間の電子移動速度定数、kgに影響を及ぼすかを明らかにしなければならない。このためにkqをA又はDの存在下でのSの蛍光寿命測定より評価し、これらの因子とkqとの関係を定量的に把握し、フォトダイオード特性の最適化を図ることを試みた。これらの関係はある程度理論的予測と一致したが、いわゆるinverted regionでのkqの挙動については、更に多くのA又はDを用いて検討する必要がある。
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