硫黄セレン化合物は生理活性物質として興味ある特性を示すことおよび、硫黄セレンを含む官能基が有機合成化学上極めて有用であることから、硫黄セレンの特性を生かした新有機合成反応研究を行っている。既に、S-アシルセレノスルフィド類の簡易合成法を見出しているが、分子内に不飽和結合を内在するセレノスルフィドをAIBN存在下、加熱することによりラジカル的にセレノチオラクトン化合物に環化する合成法を確立した。また、S-ベンゾイルフェニルセレノスルフィド(PhCOSSePh)を各種オレフィンと反応させたところ、末端オレフィンに対しては1位にチオベンゾアート、2位にフェニルセレノ基が付加し、フェニルセレノ基が完全に位置選択的に逆マルコニコフ配向に導入された付加物が高収率で得られる。これは、イオン的付加反応の位置選択性とは全く逆のセレノ基の新導入法となる。シクロアルケンへの付加では、トランス体の他にシス体の生成もみられた。この付加反応は、ヒドロキノンの添加で抑制され、AIBNにより促進されることから遊離ラジカル連鎖機構で進行していると思われる。得られた付加物のセレノ基を酸化脱離し、隣接する官能基を選ぶことにより、アリルあるいはビニルチオベンゾアートを選択的に合成することができることを見出した。上記付加反応は、光照射によってもスムーズに進行し高収率で付加体を与えることがわかった。この反応を利用して、従来のイオン反応では選択的に得られなかった2-ビニルセレニドを得る方法を見出した。一方、S-アシルフェニルセレノスルフィドはアミン類の温和なアシル化剤として有用であることがわかり、モノアミンからモノアシル体、ジアミンからジアシル体を簡便かつ高収率で得ることができた。この反応を利用してスペルミジンからメイテニンの合成に成功した。今後、S-アシルフェニルセレノスルフィドの反応性につき更に検討していく。
|