研究概要 |
マクロリドの生合成において、ポリケトラクトンを経る過程が一つの可能性として考えられる。しかし、これまでポリケトラクトンを経るマクロリドの合成は報告されていなかった。そこでC-13位に天然物と同じR-配置の不斉炭素をもつ14員環ポリケトラクトンを合成した後、還元し得られるポリヒドロキシラクトンの絶対構造を決定し、天然物の立体化学の相偉を検討した。まず、オレアンドマイシンを9-ジヒドロ-8-メチル誘導体に導いた後、二種の糖部分を切断した。そのデソサミン部分の除去は従来法では困難であったが、相当するN-オキサイドにヨウ化トリメチルシリルを反応させて初めて目的のアグリコン,(8R,9S)-9-ジヒドロ-8-メチルオレアンドライドが高収率で得られた。つぎに、4個の水酸基を同時に酸化することを種々検討した結果、四酸化ルテニウムにより完全に酸化されることが認められた。従来、大環状ラクトン上の水酸基を全て酸化する条件は知られていなかったので、ポリケトラクトンの単離と共にマクロリドの合成研究上、貴重な知見である。得られたポリケトラクトンの立体選択的還元が鍵であったが、臭化マグネシウムの存在下、水素化ホウ素亜鉛による還元により一種のポリヒドロキシマクロリドが主生成物として好収率で得られた。この絶対構造はX線解析により(5R,8R,9R)-9-ジヒドロ-8-メチル-エピ-オレアンドライドと決定されたが、C-5位においてのみ天然物と異なっているだけであり、C-メチル基は異性化可能にもかかわらず立体化学が保持されていた。このことは、ポリケトラクトンにおいて唯一固定されたC-13位の立体化学によって還元が規制される可能性を示した。次年度は天然型が好収率で得られる条件を検討する予定である。一方、C-メチル基を持たない14員環マクロリドの合成も完了したが、現在、そのポリケトラクトンを好収率で得る条件を検討中である。
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