研究概要 |
天然に大量産生する補酵素ビタミン【B_(12)】は反応中心のコバルト近傍に多くの不斉要素をもつ。ビタミン【B_(12)】を不斉触媒としてプロキラルな有機基質の不斉誘導に用いるための基礎的研究を行った。 1.ビタミン【B_(12)】によるシクロプロパン環の開裂 ビタミン【B_(12)】の還元型Co(【I】)は、電子吸引性基を有するシクロプロパン環を容易に開裂しコパルト(【III】)ー炭素結合を形成し、アルキルコバラミンを与える。生成物は別途、開裂部分に相当するハロゲン化物を【B_(12)】〔Co(【I】)〕と反応させその【^1H】-NMRを対比し、構造決定を行った。【B_(12)】に対する反応性は、1,1-ジ置換体X,Yについて比較すると次のようになる。(生越・戸井・鈴木) COC【H_3】,COC【H_3】> C【O_2】C【H_3】,C【O_2】C【H_3】> COC【H_3】,H > COC【H_3】,R > CN,H 2.ビタミン【B_(12)】による不斉誘導 基質としてプロキラルな1,1-ジ置換シクロプロパン,【(CH_2)_2】C(X)(Y)を用い【B_(12)】〔Co(【I】)〕と反応させると生成物として、アルキルコバラミン,〔Co(【III】)〕-C【H_2】C【H_2】-CH(X)(Y)が得られる。BrC【H_2】C【H_2】CH(X)(Y)と【B_(12)】〔Co(【I】)〕の反応で得られる生成物の【^1H】-NMRを対比させると、X,Yの組合せによって不斉誘導が生じていることを見い出した。特に【(CH_2)_2】C(X)(Y)の置換基の一つをアルキル基にするとアルキル基の大きさに光学収率が依存している。すなわちアルキル基が大きくなると、基質がCoに近接する段階で【B_(12)】の構成する不斉空間と相互作用するために不斉誘導がされたものと結論し得る。(青山・生越) 以上、ビタミン【B_(12)】の不斉場を用い、プロキラルな基質と反応させ、不斉有機金属化合物へ誘導し得ることが判明した。さらに光学収率を上げ電気化学的手法でCo-C結合をheterolyticに開裂させ、ハロゲン化アルキルに反応させ、官能基を含む増炭反応の触媒としての可能性を探求する。
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