研究概要 |
遷移金属を触媒として用いる場合,その有用性は遷移金属が反応の経過とともに,その酸化状態を自在に変えうることであり,この特性を利用した多くの合成法が開発され,またその一部は工業プロセスとしても稼動している. しかし,これらの反応はいずれも脂肪族化合物の合成に関するものである. 現在実用に供されている医薬・農薬は,ほとんどが分子内に窒素,酸素,イオウ等のヘテロ原子を含む複素環化合物であるが,遷移金属を触媒として用いる複素環合成は末開拓の分子である. 以上の観点より,遷移金属を触媒として用いる有用複素環化合物の新規合成法の開発を行ない,以下の結果を得た. 1. 従来パラジウム2価を用いた分子内エレフィンのアミノ化による六員環含窒素複素環合成は不可能もしくは極めて困難とされていた. 我々は窒素の保護基を種々検討した結果,ウレアを用いると,この環化が極めてスムーズにかつ一般性よく進行することを見出した. 例えば5ーヘキセニルアミン類からはピペリジンー2ー酢酸およびその誘導体が高収率で得られた. (塩化パラジウム0.1〜0.01当量,塩化銅3当量,酢酸中,室温,一酸化炭素一気圧). この反応はピロリジンー2ー酢酸の合成にも応用でき,含窒素複素環の合成法として有用である. 2. 分子内にエステル,ケトン,ニトリル,ハロゲン等の親電子基を有する有機金属は,その求核性のゆえに不安定であるが,金属として亜鉛を選ぶことにより,これらの親電子基を有する有機亜鉛が極めて再現性よく調製できることを見出し,各種遷移金属を触媒として用いることにより,多種親電子剤(酸クロリド,アルデヒド,沃化ビニル,沃化アリール,アリルクロリド等)との炭素ー炭素結合形成反応に応用することに成功した. これらの生成物は複素環に容易に変換しうる.
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