| 研究概要 |
本研究は,ラジカル重合における成長末端の性質をESR法および電気化学的手法を用いて解明し,ラジカル重合の分子設計に対する基礎データを得ることを目的とする. 生長ラジカルの観測は前年度開発した光化学用ESRキャビティを用いて,色々なビニル化合物の生長末端のESRスペクトル観測に成功した. そこで得られた基礎データをもとに,長い間,高分子量ポリマー生成に問題を残した酢酸イソプロペニルやビニルエーテルのラジカルの性質を検討し,生長速度定数の決定や生長ラジカルの構造に他の方法では得られない新たな情報を得た. 酢酸イソプロペニルの生長速度定数は,ラジカル重合で容易に高分子量ポリマーが得られるメタクリル酸メチルより大きく,高分子生成の条件を充しているが,モノマーへの連鎖移動反応が容易なため,オリゴマーしか得られないことを見い出した. ビニルエーテル類の研究では,生長ラジカルの構造がSP^2からずれ,SP^3の構造に近づいていることを示し,これがラジカル重合の特異な挙動の原因になっていることを明らかにした. また,スピントラッピング剤を用いて,成長末端モデルの反応性を検討し,四ハロメタンのような電子親和力の大きい化合物へは,生長ラジカルからの電子移動(ー電子酸化)が起っていることを見い出した. このように,ESR法によりラジカルの末端の性質に関する情報を得たが,成長ラジカルの酸化環元電位は,光化学用ESRセルに電気化学の手法をくみこむと,ESRの測定感度が低下したため,成長ラジカルの観測ができなくなり,酸化環元電位の見積りは困難であった.
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