微水系バイオリアクターシステムの一般的速度論を確立するため、酵素を含んだ微水有機溶媒(微量の水を含んだ有機溶媒という意味)中での水に存在形態およびそれらと触媒活性との関係を詳しく研究した。 1.酵素蛋白質と結合した水(結合水)および遊離状態で有機溶媒中に溶解している自由水を区別して分別定量する実験方法を確立した。この方法を用いて、各種有機溶媒中に、各種蛋白質(酵素蛋白質も含まれる)の粉末を分散懸濁させて、結合水と自由水とを測定し、これら二者の間の平衡関係を調べた。その結果、エタノールやアセトンのように水と混和する有機溶媒では、通常のラングミヤー型の吸着平衡が成立したが、ベンゼンや酢酸エチルのような水と混和しない有機溶媒では、単調に増大するような異常な吸着平衡関係を示した。これらの知見により、自由水量を適切に制御すれば、触媒活性に必要な結合水量を保障することが可能であることがわかった。また、粗製酵素粉末と精製酵素粉末とについてこの平衡関係を調べたところ、同一自由水量では精製酵素の方が低い結合水量を示した。従って、粗酵素の場合は、夾雑物質にも水は結合し、また平衡関係は酵素の純度にも依存することが判明した。 2.ベンゼン中で、リパーゼの粗酵素粉末を分散させて、15ーヒドロキシベンタデカン酸の分子内エステル化(ラクトン化)反応の初速度および収率に及ぼす水分(結合水および自由水)の影響を定量的に調べた。水分量が非常に少ないところでは反応速度は低下し、また高水分でも反応速度は低下し、従ってある水分濃度で反応速度は最大となった。結合水量対初速度の関係も同様の傾向を示した。低水分領域では、酵素蛋白質への不十分な水和が反応を律速し、高水分領域では、可逆反応律速で説明できた。実際に観測される反応速度は、水和度と可逆反応速度の積として得られ、ある水分量で最大値を示すことになると考えられる。
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