研究概要 |
セリシンとポリビニルアルコール(以下PVAと畧記)のブレンドフィルムの構造と物性について検討した。 1.試料の作製:試料は繭を煮沸してえたセリシン水溶液に、PVA(分子量91,000)5%水溶液を各種割合に混合し、各種ブレンド比のフィルムを作製した。熱処理は、オーブンにより135℃、3時間行った。 2.基礎物性の測定:セリシンとPVAをブレンドしたときの微細組織への複合効果を知るため、密度およびX線結晶化度の変化を測定した。その結果、2相間にミクロ相分離構造の形成されていると推定された。 3.電子顕微鏡観察:上の結果を確かめるため、Os【O_4】蒸気で染色した超薄切片試料についてブレンド状態を観察した。その結果PVA粒子を取り巻いてOs【O_4】で染色されたセリシン相が非晶性網目構造を形成した相分離が観察された。 4.構造変化に伴う熱および機械的性質の変化: (1)動的粘弾性:PVAフィルムは一般に170℃附近でtanδ測定が不能となるのに、このブレンドフィルムは240℃まで測定が可能となり、2相間に何らかの分子間相互作用の存在の可能性が推定された。 (2)TMAによる熱伸長ー収縮挙動:150〜200℃附近でブレンドフィルム内に熱運動による分子鎖間にスベリを生じさせないような分子間力の働く部分の存在が推定された。 (3)強伸度曲線の測定:セリシンフィルムは脆く伸長不能であり、一方、PVAフィルムは約200%の伸長を示す。ところが、10〜30%セリシン含有フィルムは約300%も伸長が可能である。 以上の結果から、2相境界内の分子間相互作用はセリシンの極性基とPVAのOH基との間での水素結合であり、いわゆるポリマーコンプレックスが形成されているものと推定される。
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