乾燥種子中の膜酵素の形状特性を明らかにするために、まずその対照となる高等植物の一般的な組織中の膜酵素の形状を解析した。すなわち、高等植物チトクロムオキシダーゼ、Fo【F_1】ATPaseおよび原形質膜ATPaseの一般的な形状を調べた。チトクロムオキシダーゼと【F_0】【F_1】ATPaseについては、そのサブユニット組成を明らかにすると共に、一部のサブユニットを分離精製し、そのアミノ末端付近のアミノ酸配列を明らかにした。一方、原形質膜ATPaseについては、今まで報告されてきている原形質膜ATPaseとは異なる別種のATPaseの存在を示唆し、それが特異なサブユニット組成を有することを示唆した。また、以上の3種の膜酵素のいくつかのサブユニットに対する抗体を調製することができた。つぎに、乾燥種子中の【F_0】【F_1】ATPaseの存在形態を明らかにする目的で、乾燥エンドウ種子の子葉からの粗ミトコンドリア画分をショ糖密度勾配遠心で分画し、【F_0】【F_1】ATPaseのαおよびβサブユニットの分布状況を調べた。これらのサブユニットは、成熟型ミトコンドリアを含む画分には勿論のこと、未成熟ミトコンドリア内膜画分および可溶性画分にも多量に存在していることが見いだされた。また、成熟型ミトコンドリア画分の滲透圧ショック処理で可溶化してくる画分にも相当量のこれらのサブユニットが存在していた。これらの結果は、乾燥エンドウ子葉中には、【F_0】【F_1】ATPaseの【F_0】部位に結合していない、つまり非結合型の【F_1】ATPaseが存在していることを示唆している。おそらく、これらの非結合型【F_1】ATPaseは、種子が吸水するにつれて、【F_0】部位に結合し、機能を有する形になるのであろう。一方、チトクロムオキシダーゼの最小サブユニットに対する抗体を用い、乾燥エンドウ子葉中に遊離型のこのサブユニットが存在しないかどうかも検索した。しかし、その存在に対する確証をうるには至らなかった。
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