パラトロポミオシンは、熟成に伴う食肉の軟化機構を追究する過程で本研究代表者によって発見された筋原線維性蛋白質であり、死後硬直時に形成されたアクチン・ミオシン間結合を脆弱にする作用を有している。本研究は食肉の軟化とパラトロポミオシンの関係を明らかにすることを目的としており、科学研究費捕助金の捕助條件に従って設備備品を購入し、以下に述べる成果を得ることができた。 1.従来のパラトロポミオシンの調製法は硫安分画、ゲル濾過およびイオン交換クロマトグラフィーから成るもので、純化には約二週間を要したが、ファルマシア社製FPLCシステム一式を購入してカラムクロマトグラフィーを迅速化するなど、調製法に改良を加えて純化に要する日数を一週間に短縮し、研究を効率的に遂行することが可能になった。 2.純化したパラトロポミオシンを用いてアクトミオシンATPaseに及ぼす影響を調べた。パラトロポミオシンは合成アクトミオシン及び筋原線維のMgATPaseに対して顕著な阻害作用を示し、K-ATPaseを活性化した。これらの結果から、パラトロポミオシンがアクチン・ミオシン間相互作用を阻害することが明らかであり、死後硬直時に形成されたアクチン・ミオシン間結合を脆弱化することを示唆している。その作用機構は、F-アクチンあるいは細いフィラメント上にあるパラトロポミオシンの結合部位がミオシンの結合部位と近接しているために、ミオシンの結合を立体阻害するものと推定される。 3.グリセリン処理筋に硬直収縮を誘起した後、純化したパラトロポミオシンを添加して荷重を掛けるとサルコメアは容易に伸長した。従って、死後硬直持に形成されたアクチン・ミオシン間の硬直結合はパラトロポミオシンによって脆弱化されることが判明した。
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