食肉の熟成中に、硬直結合を脆弱にして食肉の軟化をもたらすパラトロポミオシンについて、硬直結合脆弱化の分子機構を明らかにすることを目的として、以下に述べる成果を得ることができた。パラトロポミオシンは合成アクトミオシンおよび筋原線維のMg-ATPaseを抑制し、K-ATPaseを活性化することから、アクチン・ミオシン相互作用を阻害することが明らかになった。この阻害効果は、パラトロポミオシンがアクチンと結合することによって発現される。アクチン上にあるパラトロポミオシンの結合部位はミオシンのそれに近いところにあるので、アクチンとミオシン間に形成された硬直結合にパラトロポミオシンが付加されるとアクチンに結合し、ミオシンを排除するために硬直結合が脆弱になると考えられる。食肉の熟成中にパラトロポミオシンとアクチンの結合が起こることは、間接免疫蛍光法により明らかになった。すなわち、生筋においてパラトロポミオシンは筋原線維のA-I接合部に局在しているが、食肉の熟成中にその部位から遊離して細いフィラメントのアクチンと結合するようになる。パラトロポミオシンのこの局在移動は0.1mMCa^<2+>によって非酵素的に誘起される。さらに、グリセリン筋が硬直時に発生する張力はパラトロポミオシンの添加によって顕著に低下すること、および硬直状態にあるグリセリン筋にパラトロポミオシンを添加し、筋の一端に荷重を加えるとサルコメア長が容易に伸長することから、パラトロポミオシンが硬直結合を脆弱にする作用を有することを直接的に証明することができた。これらの結果に基づいて考察すると、食肉の熟成中には筋漿Ca^<2+>濃度が0.1mMに上昇するので、パラトロポミオシンが筋原線維のA-I接合部から遊離してアクチンに結合し、硬直結合を脆弱にすることが明確になり、パラトロポミオシン熟成に伴う食肉の軟化に大きく寄与していると結論された。
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