研究概要 |
アキカラマツ(Thalictrum minus, キンポウゲ科)の培養細胞は生成したベルベリンの大半を培地へ分泌する. 本研究ではこの特異な細胞培養系を用いて以下の研究成果を得た. 1)ベルベリンの生成・分泌促進条件:100μM NAAと10μM BAを添加し, かつリン酸量を制限したLS液体培地がベルベリンの生成・分泌に好適であった. 2)分泌機能と細胞構造:電顕解析の結果, ベルベリン生成時に特異な微小顆粒の形成を認めた. 分泌に関するこの顆粒の役割の解明は今後の問題である. 3)分泌機構:各種ATPase阻害剤の添加実験から, ベルベリンはATPaseをエネルギー源とする機能輸送で分泌されることが判明した. 4)培養株の育成:細胞選抜によりベルベリン高生産株(約830mg/l)を得た. 一方, 17固体の野性植物から個別に培養株を育成した結果, ベルベリン生成に関して培養株と親固体の間には相関関係はなかったが, 培養株の生成量と分泌量との間には有意な相関があった. 5)異種植物培養細胞の生合成能:Thalictrum属由来の培養株の生成能を比較した結果, T.flavumとT.dipterocarpumの培養株がそれぞれ500mg/l, 830mg/lのベルベリンを生成したが, 分泌能は認められなかった. 6)二段培養によるベルベリンの効率的生産法:1)で確立した生産に好適な培養条件(生産培地)は増殖には不敵であったので, 1μM2.4-Dを含むLS培地を増殖培地とする二段培養を採用する事によって安定した生産システムを確立できた. 7)固定化細胞による連続生産法:アルギン酸で固定した結果, 遊離細胞に匹敵する生成・分泌能を発揮した. そこで, 新たに考案した気液交互供給が可能な二槽式のバイオリアクターを用いて固定化細胞を培養したところ, 好適培養条件(室気供給30秒, 培地供給2分の周期)では, 60日の長期に渡って, 遊離細胞より高いベルベリン生産・分泌能(50mg/l/日)を保持できた.
|