研究概要 |
本研究の目的は、タンパク質のヌクレオチド結合部位に特異的な新しい親和標識剤を作製することである。昭和61年度において本研究費を用いることにより、次のような成果を得ることができた。1.アニオン交換法によりピリドキサールリン酸とAMP,ADP,ATPを脱水縮合させ、アデノシンヂ,トリ,テトラリン酸ピリドキサールを合成することができた。2.これらの試薬を乳酸デヒドロゲナーゼに反応させたところ、ピリドキサールリン酸に比べてはるかに急速でかつ特異的な失活が認められた。反応の解析結果からすると、失活はこの酵素の活性部位に存在する特定のリシン残基の修飾によって起こったものである。3.次いで、これらの試薬をウサギ筋肉から精製したアデニレートキナーゼに作用させたところ、二リン酸化合物が特異的にこの酵素のATP結合部位に存在するリシン残基を修飾することが明らかになり、修飾ペプチドの構造決定からそのリシン残基は【Lys^(21)】と同定することができた。この結果から、これまでX線結晶解析とNMRによっても成功しなかったATP結合部位の構造決定が可能になった。この発見は本研究費により購入した分離用超遠心機を用いて精製した酵素について行ったものであって、この装置なしではこの成果を得ることはできなかったものと考えられる。4.さらに、同様な修飾を大腸菌のATPアーゼについて試したところ、この酵素に対しては二リン酸化合物は無効であって、三リン酸および四リン酸化合物のみが有効であるという興味ある結果が得られた。5.今後、アデニレートキナーゼに対する三リン酸および四リン酸化合物の反応を解析することによって、本研究で合成した新しい親和標識剤の有用性を確立させる予定である。
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