研究概要 |
1)NMRによる方法論の確立と展開:ハイブリドーマのinvitro培養により, 選択的に重水素化した抗体を単離, 精製するプロトコールを確立した. 抗原抗体反応のプロトンNMRによる解析において, 全重水素化した抗体は, 言わば黒衣として, 抗原の情報のみを浮かび上がらせる役割を果たす. また, 抗原認識部位の一部を選択的に重水素化すれば, 抗原受け口の構造と相互作用について, NMRの特長をフルに生かした研究成果が期待できる. これまでに, ダンシル, アセチルコリン, ステロイドなどハプテンのほか, ニワトリリゾチームに対するマウスモノグローナル抗体を選択的に重水素ラベルしNMRによって解析を行なった. 2)抗原認識の分子機構について:ニワトリリゾチーム分子上のエピトープに対応するペプチドの単離, 精製を行ない, 高次構造を保持するタンパク質から分離されたペプチドがどのように相互作用するか, intactリゾチーム分子の場合と比較した. 上に述べた意味でデザインされた抗体を, 荒田が近年確立したspin diffusionを利用する方法と組み合わせて用いることにより, 抗原抗体反応の特異性発現の本質が, 抗原側から浮かび上がってくる. すなわち, 抗原の広い部分が, 抗体によってパターンとして認識されていることが明らかになりつつある. 3)免疫学的認識分子の構造についての考察:研究協力者黒沢は, T細胞レセプターのC領域, 免疫グロブリンのV領域をもつキメラタンパク質の発現に成功した. すでに, NMRを用いてこのタンパク質の高次構造について解析を始めている. 4)本研究によって得られた成果:ここに要約した研究結果をもとにして, 研究代表者が現在までに到達した結論は, 最近まとめて総説の形で公表した.
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