研究概要 |
私達はショウジョウバエのアミラーゼ遺伝子の研究において誘発能という概念を導入し, 自然集団中には構造遺伝子の多型ばかりでなく, 誘発能調節遺伝子に関して多くの遺伝的多型が存在し, しかもそれらが生物の適応進化に極めて重要である事を明らかにしてきた. これらの現象を分子レベルで明らかにするために主として以下の2つの実験を行った. (1)アミラーゼ遺伝子の構造解析. キイロショウジョウバエの7系統, および7種の近縁種から合計14の遺伝子ライブラリーを作製し, アミラーゼ遺伝子とその近傍の構造を制限酵素地図の作製と塩基配列を決定することによって明らかにした. これらの系統アミラーゼ活性と塩基配列の違いとの関係を調べたが, 明らかな相関は見られなかった. 一方, ケージを用いた実験で, アミラーゼの誘発能に関して別々の方向に自然淘汰を受けた2つの系統間の遺伝子構造を調べた実験でも, 誘発能の違いと遺伝子構造の違いの間には, 明らかな関係は見られなかった. これらの実験結果は, 誘発能に関与する遺伝子は, 第二染色体ではなく, 第三染色体上にあるという, 私達のこれまでの結果を支持するものである. (2)P因子を利用した形質転換. これまでいくつかの異なるアミラーゼDNAを, ヘルパーP因子とともにM系統の受精卵に注入し, 形質転換系統を確立した. これら形質転換系統のアミラーゼ活性と, 注入されたアミラーゼ遺伝子の構造との関係を, 現在解明中である.
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