研究概要 |
この研究は哺乳類各種のもつ社会構造比較のために, その共通の尺度として, 社会構造を発達させる基盤として働いたと考えられる生息城内の様々な資源量とそれを利用する様式を生物経済学的手法をもちいて計測しようとするものである. 草食哺乳類については, カモシカ, ニホンシジカ, イノシシを対象として, 個体識別法およびテレメトリー法を駆使してグループの構成とその変遷, 個体ごとの行動圏の広さ, その重複度, さらに個体の日周期活動リズムを明らかにした. 一方, 行動圏内の餌資源の分布状況, 餌の栄養分析による質的評価, 餌植物への選択性, その季節的変化を明らかにすることにより, 各種の行動圏内の資源利用様式を決定し, 社会構造維持機構を評価した. 肉食性哺乳類については, 草食獣と同様の手法をもちいて, イリオモテヤマネコ,ツシマヤマネコ, ツシマテン, チョウセンイタチ, ホンドキツネを対象にして, 行動圏, 日周期活動を明らかにした. 肉食性哺乳類については餌資源量の評価は難しいが, 産仔や育児, 休息地として利用する巣の重要性に注目することで資源利用を評価できた. すなわち母から仔への行動圏とその中の巣穴の継承過程, 雄と雌の行動圏の利用期間, スペーシングアウトの有無等によって各種の社会構造維持機構の評価を行った. 今年度の主なる研究は昨年度にひきつづき各種の継続資料の蓄積にあったが, 一部は小テーマとしてまとめた. これまでの資料解析から種ごとの社会構造維持機構の解明にも進展が見られている. 来年度にむけてさらに目的を生物経済学的評価に絞り, 本手法の有効性の検証を続け, 種を超えた哺乳類の社会構造の総合的比較の尺度の確立を目指す. この結果から社会構造とその維持機構の発達の進化的考察を試み, 新しい仮説を提唱することが可能となる.
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