研究概要 |
細胞性粘菌では予定胞子細胞への分化が起るためには集合体の形成が必要とされる。本研究では遊離細胞のままで分化を誘導する因子が分化した細胞の中および外液に含まれていることを見出し、部分精製を行った。 増殖期の細胞を約10時間飢餓状態に保持すると、細胞表面に新たな接着部位が生成し集合体の形成が可能となる。この段階ではまだ予定胞子細胞に特有の蛋白質は全く生成されていない。このような細胞を、互いに接着が起こらないような極めて低い密度においてカバーグラス上でincubateしたあと、予定胞子細胞(蛍光で標識した抗胞子抗体によって染色できる)への変換率を測定することによって因子の活性を測定した。予定胞子細胞への分化のためにはこの因子のほかに、cAMPとアルブミンを必要とした。正常発生の場合、この因子は細胞が集合体を形成する以前から生成が始まった。また液体中においては因子の生成はcAMPによって増進された。この因子は増殖期の細胞に対しては無効であったが、細胞が集合可能な状態に達してはじめてその作用を発揮した。この因子活性は酸性条件下酢酸エチルで抽出された。抽出物はゲルパーミエイションクロマトグラフィーにより分子量約300の画分に活性のあることが示された。活性は酸(0.1N 【H_2】【SO_4】,80℃,1h)、アルカリ(0.01NNaOH,20℃,1h)、熱(100℃,10min)に安定であったが過ヨード酸(0.1M,20℃,2h)によって失活した。さらにODSを用いる逆相クロマトグラフィーにより因子活性は2つの弱い画分に分けられ、これらを合わせると元の活性が回復した。また予備実験の結果、これらの2つは分化の異なった段階で作用していることが示唆された。 以上の結果は、細胞が集合体を形成することによって細胞の間隙にこれらの因子が蓄積し、それが細胞の分化を起こすことを示すものである。
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