研究概要 |
当初計画において、小笠原諸島内の各島、とくに兄島,弟島,姉島などの小島をも含めて材料植物の系統的,組織的な調査とサンプリングを行なうことをめざした。この計画に従い7月,11月および1月に開花,結実状況の調査と資料収集を行なった。悪天候のため弟島と姉島にはついに渡航できなかったが、父島,母島,兄島を中心に十分な資料を採集し、現在東京で栽培中である。またこの調査によって、ムラサキシキブ属の3種の小笠原固有種すべてについて、花の機能的性分化に関して新しい知見が得られた。 すなわち、この属の植物には従来両性花のみが報告され、雌雄の性分化は知られていなかった。また小笠原産の固有3種についても、外部形態的な観察から両性花と雄花との存在が予見されていたが、外観上の両性花は実際は機能的に雌花としてのみ働き、同花の作る花粉は全く発芽能力をもたないことが明らかとなった。このことは、隔離された海洋島における性分化の進化という進化生態学的な見地からきわめて注目に値すると思われる。 次に、同属以外の小笠原固有種子植物についても、染色体,核型の解析を中心に、対応する関連種群との比較を進めるため、採集資料の育成を東京で行なっている。次年度にその発根をまって根端細胞による細胞学的な研究を進める予定である。 パーオキシダーゼなどのアイソザイムを用いた類縁関係の追跡に関しては初年度はムラサキシキブ属やトベラ属などを対象に予備的な実験を重ね、技術的な習熟をめざした。次年度以降、実際的なデータの集積を期待している。
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