研究概要 |
当初計画した通り, 小笠原諸島内の各島で材料植物の系統的, 組織的な調査とサンプリングを行なうことをめざした. この計画に従い, 研究協力者の川窪伸光(博士課程終了研究生)とともに6月, 9月および3月に小笠原固有種子植物の開花, 結実状況の調査と資料収集を行なった. その結果, 父島母島, 兄島を中心に十分な資料を採集し引きつずき東京で栽培, 観察中である. またこの調査によって, 昨年来注目してきたムラサキシキブ属の3種の小笠原固有種すべてについて, 花の機能的な雌雄性分化が確認され, これにもとずいて同属固有種の単系統性を推定する重要な根拠を得た. すなわち, 旧大陸の熱帯地方を中心に百数十種が知られる同属植物では従来, 日本産のものも含めてすべての種が両性花をつけるものとされてきた. また小笠原の固有種3種も両性花もしくは両性花と雄花をつけるものとみられてきたのに今回の調査研究により, 雌花では充実した花粉を作りながらその花粉が発芽孔をもたないという, きわめて特異な性分化を示すことが確認された. しかもこの特性が小笠原産の3固有種すべてで認められたことで, 海洋島である小笠原への移住定着後の共通祖先に起こった変異を共有するものと理解することができる. ムラサキシキブ属以外の固有植物についても, 前年来収集をつずけている生きた植物体を東京で栽培中で, 染色体, 核型の確認を目下急いでいるところである. 昨年予備的に着手したアイソザイム変異に関する研究は技術的に未解決な部分をのこしてはいるが, 島内変異の解析にとってきわめて有力な手法であることから, 次年度にはぜひ成果をあげたいと努力中である.
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