無脊椎動物における光感覚の受容とその機能維持にかかわる物質的背景を解明するため、視物質ロドプシン(Rh)、レチノクロム(Ret)、レチナール結合蛋白質(RALBP)の三者間の相互関連が、in vitroおよびin vivoにおいて生化学的および細胞化学的に研究された。我々の発見した後二者は、視物質と共に永年に亙り諸性質が調べられてきたので、それら独自の研究をレチナールの異性化と代謝過程の観点からまとめ、無脊椎動物の視細胞に特徴的な本質的機構について分子生理学的な理解を深めようとした。 RALBPは視細胞内にだけ存在して、レチナールを運搬し、光産物メタレチノクロム(MRet)およびメタロドプシン(MRh)のそれぞれとレチナールを交換できることが証明された。RALBPとMRet間での交換は内節のほか外節基端部に存在するミエロイド小体で、RALBPとMRh間での交換は外節の感杆微絨毛で進行する。即ち、RALBPはRh形成に必要な11ーシス型レチナールをミエロイド小体から感桿微絨毛へ、Ret形成に要求される全トランス型レチナールを逆に外節から内節へと運搬し、両感光性色素の再生に直接貢献しつつ、レチナールの反復利用を実現させている。RALBPを介して一つに纏められる此の系はロドプシン・レチノクロム系と呼ばれ、光感覚の受容とその機能維持を果たす、無脊椎動物視細胞に備わる本質的機構である。この際の再生は、単なる置換ではなく、メタ色素とRALBP間でのレチナールの交換によって特徴づけられ、暗再生機構としては初めて知られた反応である。 上記の交換反応と関連して、RALBPの所在に関する免疫細胞化学的検討が行われた。他方、3つの色素に対す抗体を用い、種々の動物組織への適用、RetとRALBPの一次構造決定の研究が進んだ。また、Retに就いては、レチナールアナログを用いる光化学反応や蛋白質構造研究、腹足類や原始頭足類網膜での検討などが行われた。
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