研究概要 |
軟体動物頭足類に属するタコ(Octopus ocellatus, O.hummelincki,O.berenice Gray)を用いて、体心臓,鰓心臓,鰓,大動脈,大静脈を中心に解剖学的観察を行った。更にこれら循環系に関係する内臓神経系の微細解剖を行った。内臓神経の機能を調べる為、内臓神経節節前および節後神経の電気的刺激に対する体心臓の心房,心室筋細胞内電位変化を記録した。他の軟体動物(腹足類や二枚貝)の心臓における抑制性および促進性神経伝達物質としてもっとも有力なアセチルコリンおよびセロトニンの心筋への効果を細胞内記録法により調べた。 1.内臓神経の刺激パルスに1:1に対応する抑制性接合部電位(IJP)を心房,心室の両心筋から記録することに成功した。IJPは5Hz以上で、明瞭な促通および加重を示した。心房と心室間に存在する房室弁からの細胞内記録は不成功におわり、房室弁に堅固な結合組織が存在することが示唆された。2.IJPと同様、内臓神経刺激パルスに1:1に対応する興奮性接合部電位(EJP)が、心房,心室の両心筋から記録することに成功した。EJPは2Hz以上で促通,加重を示した。これらの結果は、心臓の二重神経支配を示すと同時に、神経-筋接合部を介してその支配がおこなわれていることを示している。3.アセチルコリンを灌流投与すると、心室の膜電位が過分極をおこし、4.セロトニンの投与は脱分極をおこした。過分極により活動電位の頻度は低下し、脱分極により活動電位の頻度が上昇した。これらのことは抑制性神経伝達物質がアセチルコリンで、興奮性伝達物質がセロトニンである可能性を示している。両薬物の心房筋に対する効果は、調べられなかったが、抑制性,興奮性両接合部電位が両部域から記録されたことから、心房においても、おそらく心室と同様の膜電位変化がおこるものと推測された。
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