研究概要 |
タコ(Octopus ocellatus)の心臓および循環系と内蔵神経系の摘出標本を作成し, 心臓への神経支配の生理学的研究を行った. 内臓神経は心房近傍にある第1心臓神経節と接続し, この神経節から心房および心室に心臓神経が延びている. この神経節の節前神経を刺激すると, 刺激の強さに応じて, 二種類の心臓活動調節効果が見られる. 一つは心臓活動の興奮効果であり, 他は抑制効果である. 同様の効果が鰓から心臓にかけての薬物の内部灌流によって得られた. セロトニン(5HT)は心臓興奮効果を, アセチルコリンは心臓抑制効果を示した. これらのことから心臓興奮性神経伝達物質および心臓抑制性神経伝達物質はそれぞれセロトニンおよびアセチルコリンであると推測された. 実際細胞内電位記録法による心房および心室筋から膜電位を記録したところ, 5ーHTは脱分極をともなう活動電位の増強をひきおこし, アセチルコリンは過分極をともない, 活動電位の振巾およびプラトー相を減少させ高濃度(10^<-6>M以上)では心臓停止をひきおこした. 既に神経刺激に対して, 興奮性接合部電位(EJP)および抑制性接合部電位(IJP)記録に他の種(Octopus humeriwicki)で成功しているので, 両薬物の電気泳動投与による心筋膜電位反応を記録し, この電位に対する阻害剤の効果と, 両接合部電位に対する阻害剤の効果とを比較し, 伝達物質の同定をすべく実験を進めている. 一方内臓神経, 心臓神経節および心臓の組織切片を作成し, 組織学的に神経支配の機構を調べた. 心臓神経節は直径50〜80μmの比較的小型なニューロンを多数含んでいる. この神経節ニューロンの免疫細胞学的検索を行うべく, まず抗セロトニン血清を用い, FITC法でセロトニン作動性ニューロンの同定を行う準備を進めている.
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