研究概要 |
昭和62年度の研究結果は以下のようにまとめられる. 1.微小空間分布の観察……南関東沿岸および沖合において海底表層部の微環境を観察・検討した. その結果,堆積物底の表層部にみられる微小環境に適応して棲み分けている有孔虫の実態を把握した. 成果は学会・シンポジウムで発表し,論文としてまとめている. (北里・和田担当) 2.実験空飼育……今年度は大陸棚より深い海に生息する有孔虫の生態情報を得ることを目標として,水深300m〜2000mより採集した有孔虫を冷蔵庫で飼育した. 飼育期間は3ヶ月を超えており,これは世界で初めてである. これらの有孔虫生態を双眼実体顕微鏡・倒立顕微鏡を用いて観察し,写真に記録した. その結果,中深海においても有孔虫はそれぞれの生活様式にしたがって棲み分けており,生活様式と殻の形態との間には強い相関があることが明らかになった. (北里担当) 3.SEM・TEMによる殻形態・細胞の観察……有孔虫の口孔部付近の彫刻と細胞との相関を検討した. 殻の口孔部の彫刻は前年度に推定した仮足を伸ばす時のガイドの役割をしているだけではなく,仮足によって捕獲されたエサを選別する機能もあることを明らかにした. (北里・和田担当) 1〜3の研究によって底生有孔虫の殻の形態が遺伝的に決定されているだけではなく,生活する上での機能的意味を持っていることが鮮明になった. 4.殻形態の理論的検討……パソコンのグラフィックス機能を利用し,底生有孔虫の殻の付加様式を初等幾何学的に検討した. その結果,有孔虫の殻の付加生長は等比級数で近似できことが明らかになった. このことは有孔虫の殻は細胞が等速生長をしてある特定の密度に達した時に付加されることを意味している. また殻の付加生長にともなった重心移動は有孔虫の生活様式と強い相関があることも明らかになった.
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