昭和63年度の研究結果は以下のようにまとめられる。 1 微小空間分布の観察;汽水湖(浜名湖)、サンゴ礁(沖繩、瀬底島)、深海(熊野灘)のさまざまな環境下における底生有孔虫の微小空間分布を調査した。堆積物底では、表層から内部への環境変化にしたがって、有孔虫は住み分けている。また、サンゴ礁では、付着生有孔虫がほかの付着生物と空間の奪い合いをしており、有孔虫の微小空間分布は他生物との力関係によって決定されている。(北里・和田担当) 2 実験室飼育;有孔虫が他の生物にどのように捕食されるのかを知るために、有孔虫を捕食者とともに飼育した。底生有孔虫は線虫に口から侵入され、ゴカイにかじられ、さらにナマコ・魚類に丸飲みにされるなど、さまざまな生き物にさまざまな方法で捕食されている。また、昨年度に引き続き、深海に生息する底生有孔虫の飼育を行なった。その結果、堆積物の表面に分布する有孔虫は、殼が厚く、細胞の色が薄茶色である。それに対し、堆積物中に生息する有孔虫の場合、殼がガラスのように薄く、細胞の色は黒い。このように生息場所によって殼や細胞に違いがある。(北里担当) 3 SEM・TEMによる殼形態・細胞の観察;1・2によって生態が明らかになった有孔虫の殼の内部構造をSEMによって観察した。底生有孔虫の殼の内部構造は、いずれも殼の力学的強度を増し、あるいは外界から細胞本体までの距離を置くという役割がある。このことは、他の生物による捕食から逃れるという有孔虫の防御形態として説明することができる。また堆積物中の有孔虫はガラス様の薄い殼を持っており、細胞の色が黒い。これは、捕食者が少ない堆積物の中への適応であるということのほかに、エネルギー源として化学合成細菌を共生させている可能性があることを示している。(北里担当)
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