底生有孔虫類の殻の形が持つ機能的意味を明らかにすることを目的として研究を行なった。研究は次の順序で行なった。 1.生態調査:汽水湖(浜名湖)、岩礁地潮間帯(御前崎・下田)、サンゴ礁(沖縄・瀬府島)、浅海(下田湾・伊豆近海・熊野灘)、深海(熊野灘・駿河湾・相模湾)において、さまざまな海洋環境下における底生有孔虫類の微小空間分布を調査した。有孔虫は、海底の微小な環境の違いに従って住み分けているので、その住み分けているグループ毎に試料を採集した。 2.実験室飼育:採集した有孔虫は、実験室内で飼育し、底生有孔虫類の生活様式・運動・摂飼様式および他の生物による捕食方法を観察した。 3.SEMによる殻形態の観察:1.2によって生態が明らかになった底生有孔虫の殻は走査型電子顕微鏡を用いて観察した。とくに、口孔部付近の溝など、彫刻については詳細に検討した。 4.殻形態の理論的検討:有孔虫の殻の形態を表わす簡単な幾何学的モデルを作った。そのモデルのパラメーターを変えることによって有孔虫がどのようなきっかけで殻をつくって成長するのかを検討した。 底生有孔虫類の殻には次のような機能的意味がある。 (1)底生有孔虫の外形と口孔部の位置は生活様式と強い相関がある。 (2)有孔虫の口孔の形態・彫刻は、有孔虫の仔足の伸展を補助する役割がある。つまり、有孔虫の運動と食性に関係した機能がある。 (3)有孔虫の内部構造の複雑さは、殻の力学的強度を増加し、あるいは外界から細胞本体までの距離を置くという役割がある。このことは、ほかの生物による捕食から逃れるという有孔虫の防御形態である。 しかし、有孔虫の殻の形態は、一つが一つの機能に対応しているのではなく、いくつかの役割を担っている。
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