研究概要 |
核と細胞質の相互作用に基づく生理形質を対象として、個体・細胞・DNAの各レベルの知見を綜合して遺伝解析を試みた。(1)個体レベルでの解析…テンサイの細胞質雄性不稔の内で、mtDNAの性状の異なるS,S-2,S-3,S-4型の各細胞質に働く稔性回復核遺伝子の作用機構がそれぞれ異なることを確かめた。しかし個体レベルでの遺伝機構は必ずしもmtDNAの特性より予期される結果と一致しなかった。次にAegilops ovata由来の細胞質の出穂特性に及ぼす影響は、低温要求性,日長感受性,純粋早晩性の3要因に多面的に現われた。(2)細胞レベルでの解析…体細胞雑種の選択や遺伝解析に不可欠のマーカー系を確立するため、イネとコムギのカルスを用いてストレプトマイシン抵抗性の細胞選抜を試みた。ストマイ添加培地で5〜12代継代した結果高度抵抗性のカルスクローンを得たが、イネでは再生植物がアルビノを呈しコムギカルスからの再分化は低率に止まった。またテンサイのカルスを供試して蛇眼病菌の毒素に対する耐性変異を調べ、顕著な品種間差を見出した。効率的な緑色幼植物再分化系の開発が次年度以降の課題である。(3)DNAレベルでの解析…テンサイ正常株より抽出したミトコンドリアDNAのSalI断片を大腸菌のプラスミドpBR328でクローン化しDNAライブラリーの作成を試みた。現在までに約2/3のSalI断片のクローン化に成功した。その一部についてはダイデオキシ法によって塩基配列の決定を行い、呼吸代謝に関与するミトコンドリア遺伝子の同定ならびに構造と機能の解析を進めている。またテンサイおよび10種のBeta属野生種について葉緑体DNAの制限酵素切断地図を完成した。その結果Beta属の葉緑体ゲノムには多数の制限サイト変異と50〜600塩基対にわたる欠失・挿入の生じていることを見出した。さらにRuBisCO・LS,リボソーム蛋白等10種を越える葉緑体遺伝子を同地図上にマッピングした。
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