1.目的:作物生産上不用あるいは有害とみなされてきた過剰(いわゆるB)染色体を改造して、(1)常(A)染色体の有用遺伝子を導入する為の担荷体(ベクター)として利用すること、さらに、(2)B染色体の特徴である染色体数増幅効果を育種的に利用することの可能性について検討したものである。 2.実験の骨子:(1)B染色体をもつライムギと普通コムギのF_1種子にX線照射し、(2)BーA転座の誘発を試み、(3)転座B染色体の探索法を検討し、(4)B染色体の増幅の有無をみたものである。 3.結果:(1)転座B染色体の探索はカーミンーCバンド重複染色により正常染色体を順次消法後、構造変異染色体を同定する方法が最も効率的であった。(2)BーA転座染色体を有する個体が1個体得られ、また、ライコムギにおいてB染色体が10本まで増幅したことが確認された。ただし、BーA転座染色体の増幅については、この次代を育成中のため未確認である。 4.結論:(1)B染色体の選好的不分離はライコムギにおいても認められた。このことより、B染色体の遺伝子増幅作用とA染色体の有用遺伝子部分からなる小形染色体の作出は可能であり、これを育種に利用することは有効であると考える。(2)核ゲノム以外の過剰染色体であれば除去することも比較的容易なので、特定の遺伝子をB染色体に組み込んで、育種過程の必要な世代にのみ使用することも可能である。(3)BーA転座染色体の効率的なスクリーニングをするために、今後、B染色体の動原体異質染色質部分を特異的に染色する分染法を開発することが望ましい。
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