研究概要 |
4種のRNAをゲノムとするイネ縞葉枯ウイルスにおける各RNAのもつ遺伝情報を知る目的で、小素胚芽由来またはウサギ網状赤血球由来の無細胞蛋白質合成系にゲノムRNAを加えることで産生される翻訳産物を調べた。その結果、3H-ロイシンの取込みは約10倍見られたが、感染に特異的なウイルス外被蛋白の産生はほとんど見られず、ゲノムRNAが通常のプラス鎖RNAとは異なる可能性が示唆された。一方で、ウイルス試料中に非常に高いRNAポリメラーゼ活性が存在することがわかり、本ウイルスRNAのゲノムについて、従来の観点を大きく変えることの必要性が明らかとなった。本ウイルスの粒子に結合したRNAポリメラーゼは2価イオン(【Mg^(2+)】,【Mn^(2+)】,【Fe^(2+)】のいずれか)と4種のヌクレオチド3リン酸に依存している。ウイルスRNAポリメラーゼ活性はDNaseやrifampicin,actinomyinDによる影響は受けなかったが、RNaseによって完全に阻害された。反応の最適温度は約40℃と高く、pHについては8付近が最適であった。界面活性剤によるウイルス粒子の処理やS-adenogylmethionineの添加による活性の増加は見られなかった。本ポリメラーゼによる合成産物を解析した結果、ウイルス粒子に含まれる4種のRNA、そして各ウイルスRNAの2倍の分子量に相当する二重鎖RNA、さらに1.0×【10^6】,0.56×【10^6】の分子量をもつ二重鎖RNAが合成されていることが明らかとなった。本ウイルス試料中にウイルス外被蛋白以外に存在する微量成分の230Kの蛋白がRNAポリメラーゼ活性を担うと考えられた。本ウイルスの粒子形態は、特異な糸状をしており、1984年国際ウイルス命名委員会はイネ縞葉枯ウイルスを中心とする新しいウイルスのグループを設けた。このグループに属するイネグラッシースタントウイルスでもイネ縞葉枯ウイルスと同様のRNAポリメラーゼ活性が見いだされ、本グループのウイルスの研究は新たな展開をしている。
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