ウリミバエでは、オスがレックを形成し、メスがここに飛来して交尾が起こる。オスは好適なコーリング場所を巡り激しく争う。このとき、増殖虫はレック内でのオス間競争で野生オスに劣った。さらに、メスの再交尾率と再交尾までの日数を調べたところ、増殖オスと交尾したメスは野生オスと交尾した場合に比べ、短い日数でしかも高い割合で再交尾したことから、増殖オスは交尾後の競争でも野生オスに劣ることが分かった。 網室で配偶行動を観察した結果、ウリミバエの交尾には、オスとメスが遭遇した後、オスがメスに求愛をする「求愛型」の他に、遭遇後オスが直ちに交尾を試みる「省略型」の2タイプがあることが分かった。そして、野生メスは省略型では野生オスとも増殖オスとも交尾したが、求愛型では飼育オスを拒否し野生オスとのみ交尾した。このことからメスはオスが求愛するときの翅振動を何等かの手がかりとして、配偶者選択を行っていると考えられた 増殖オスの飼い馴らしは、成虫ケージに異常な高密度で飼育されていることによると考えられた。すなわち、このような高密度条件下では、レックを形成し縄張りを守るオスは侵入者と絶えず争うこととなり多大のコストを被るので、オスの縄張り制が崩壊し、レックは形成されないであろ。一方、メスにとっては、オスが争わないので、配偶者を選択するメリットがなく、できるだけ早く交尾し、子孫を残す方が有利となるであろう。しかし、こうした狭い飼育ケージ内に適応した増殖虫の性質は、野外で通用しないため、これを不妊オスとして放飼しても性的競争力が劣るのは当然である。 以上の結果より、不妊虫の性的競争力の低下は大量増殖の必然の結果であり、これを完全に阻止することは不可能であることが分かる。そこで、低下をできるだけ抑える方法を検討することと、低下をどの程度まで許容できるかが今後の問題となるであろう。
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