研究概要 |
植物細胞におけるウイルスの重複感染並びにウイルス間干渉作用の機構を明らかにする目的で、タバコ及びオオムギを宿主とし、タバコモザイクウイルス(TMV)及びオオムギ斑葉モザイクウイルス(BSMV)を供試ウイルスとして、ウイルス増殖の抑制及び促進について検討した。まず、オオムギ幼苗第1葉にTMVとBSMVを単独または混合接種し、両ウイルスの増殖を調べたところ、単独接種葉ではTMVは増殖しないが、混合接種では増殖移行することが明らかになった。接種葉から調製したプロトプラストの各蛍光抗体との反応率を調べたところ、いずれも20-40%であった。次に、健全葉から調製したプロトプラストを混合感染させたのち、両ウイルスの増殖を蛍光抗体法によって調べたところ、両蛍光抗体と反応する細胞は25-30%と等しく、BSMV共存下では、TMVがオオムギ葉細胞で増殖することが示唆された。更に、健全プロトプラストに両ウイルスを単独または混合し、顕徴注射接種したところ、単独接種ではTMVは増殖しないが、混合接種では増殖することが明らかになり、BSMVがTMV増殖の援助ウイルスであることが実証された。これらの結果は、BSMVゲノムにTMV-RNA複製を援助する遺伝情報がコードされていることを示している。BSMVはスプリットゲノムをもつウイルスであるが、RNA1,2,3のいずれにその援助情報が局在するかについて、現在検討している。予備実験の結果では、RNA2が援助活性に重要なようである。一方、タバコ葉にTMV・BSMV混液を接種した場合には、BSMVの増殖は認められず、援助ウイルスのレプリカーゼの鋳型特異性がこれらの現象を説明するものと考えられた。現在、電気泳動法によってレプリカーゼを分離中である。これらに並行して、培養細胞へのウイルス注入量について検討したところ、10ng/ml TMV 0.24-1.65x【10^(-5)】nlの範囲で同調的ウイルス増殖が認められ、3.7x【10^(-5)】nl以上の注入は不可能であることも明らかとなった。
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