昭和61年度の研究実績を要約すると以下の通りである。1.カイコ由来の樹立培養細胞であるBM-N細胞にカイコ核多角体病ウイルス(BmNPV)を感染させ、プラーク形成の条件を種々検討して、効率的なプラーク法の確立に成功した。2.このプラーク法を用いて、BmNPV感染幼虫の膿汁から3種のBmNPVクローンを得、それらのクローンの中で最も増殖効率のよいクローンをBmNPV-N9と命名して、標準型として設定して以後の実験に供した。3.BmNP-N9に感染したBM-N細胞の培養液中のウイルス・タイターをプラーク法により測定したところ、ウイルス・タイターは感染後16時間頃から急激に増加をはじめて48時間にはほぼプラトーに達し、以後その値が240時間まで続いた。ちなみに、多角体の形成は感染後28時間から32時間にかけて一斉に開始することが、顕微鏡観察により明らかになった。4.BmNPV-N9感染BM-N細胞のポリペプチドをSDS-ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動(PAGE)で分析したところ、細胞ポリペプチドの多くは感染に伴って逐次減少し、非感染細胞には認められない6種のポリペプチドが新たに出現した。5.BmNPV-N9感染細胞を【^(35)S】-メチオニンでパルスラベルし、SDS-PAGEで分析後、フルオログラムを作成して検討したところ、細胞ポリペプチドの合成は感染に伴って次第に停止し、新たに29種のポリペプチドの合成が感染後3時間から30時間にかけて認められるようになった。6.【^(35)S】-メチオニンでラベルした感染細胞ライセートを抗BmNPV血清と反応させたところ、新たに合成が認められるようになった29種のポリペプチド中23種が特異的に沈降したことから、これら23種のポリペプチドはウイルスの構成ポリペプチドであることが推察された。7.以上の結果にもとずいて、BmNPVの増殖機構を主としてたんぱく質代謝の面から考察した。
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