研究概要 |
生育環境からの情報を認識し, 分裂周期を次のサイクルへ進行させるかどうかの決定に, 蛋白質燐酸化が関与している. 燐酸化酵素は, 種々の分子種が次々と分離同定されてきているが, その中でも, cAMP依存性蛋白質燐酸化酵素(Aキナーゼ)について, 国内外で, 詳細な研究が行われてきた. 本研究中で, 我々は, 以下の三点を明らかにした. (i) Aキナーゼ調整蛋白質遺伝子BCY1 をクローニングし, 塩基配列を決定した. 推定上のアミノ酸配列は, ウサギ筋由来のAキナーゼ調節サブユニットとよく似ていた. bcy1-1変異型遺伝子もクローニングし, その塩基配列を野生型のものと比較したところ, アミノ酸配列に異常はなく, 5´-上流中に新たなATGが生じていた. BCY1 産物中に燐酸化部位(RRTS)が見出され, この部位の活性への影響を調べるため, oligonucleotide directedmutagenesis により四種の置換体を造成し, そのBCY1活性を調べた. その結果, Aキナーゼの活性調節にBCY1産物の燐酸化部位が係りが, 限らずしも燐酸化が必要ではないことが明らかになった. (ii) 燐酸化蛋白質脱燐酸化酵素遺伝子として報告されているPPD1遺伝子をクローニングし, その塩基配列の決定に着手した. (iii) Aキナーゼ支配下にある遺伝子は複数存在する. その中で, 増殖に必須なものを探索して, その働きを明らかにすることによって, Aキナーゼの増殖調節への役割が明らかになる. ユビキチン遺伝子(UBI4)の欠損により, 細胞は, 熱ショックに感受性, 胞子形成不能, G1アレスト不能など, bcy1^-変異体とよく似た表現型を示す. そこで, UBI4の発現調節を調べたところ, その発現は, CAMPレベルの低下によって誘導されること, また, この誘導は, Aキナーゼを介して行われることがわかり, UBI4は, Aキナーゼの下流の遺伝子の一つであることがわかった.
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