研究概要 |
本研究の目的は, 細胞壁中にあるがまゝのプロトリグニンの特定の構造単位を^3Hおよび^<14>Cで選択的に標識し, これをミクロオートラジオグラフ法で可視化すること, この手法で樹木細胞壁におけるリグニンの形成過程を調べ, その分布および構造の不均一性を明らかにすることにある. リグニン生合成の前駆物質として, ^3Hまたは^<14>Cで標識したP-クマール酸, フェルラ酸, シナピン酸, P-クマリルーβ-D-グルコシド, コニフェリンおよびシリンギンを合成した. これらをクロマツ, ポプラ, コブシ, ライラックなどの樹木に投与して吸収代謝させた. 新生木部組織の固定, 包埋後薄切片の作成, 感光剤による被覆, 露出, 現像, 染色, 顕微鏡写真の撮影など実験条件の設定をした. 得られたミクロオートラジオグラムの銀粒子分布を解析した結果, 次のことが明らかになった. 1.リグニンの細胞壁への堆積は, 当該細胞自体により制御されている. 2.リグニンは二次代謝産物であるため, そる形成は当該細胞の種類, 年令等により異なる. 3.リグニンの堆積が開始されるよりも前に炭水化物が堆積する. したがってモノリグノールの重合は, 炭水化物ゲル中でおこる. 4.細胞の分化段階の進展に伴って, 堆積するヘミセルロースの種類が変る. また, モノリグノールも, P-クマール酸, フェルラ酸から, P-クマリルアルコール, コニフェリルアルコール, シナピルアルコールへとその種類が変るため, 分化の初期に堆積する細胞間層およびセルコーナーのリグニンと, 後期に二次壁に堆積するリグニンとは構造が異なる. 5.広葉樹では, 初期に木質化する道管には主にグアヤシルリグニンが, 後期に木質化する木繊維ではシリンギルリグニンが多く堆積することになる. 6.ポプラリグニン中に存在するP-ヒドロキシ安息香酸エステルは, 細胞壁形成の初期にやゝ多いが, ほゞ全期間にわたってポプラリグニンの構成要素として生成される.
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