研究概要 |
ボツリヌス神経毒素はin vivo系では神経一筋接合部に接合し, in vitro系ではシナプトゾーム(Sym)前膜に結合し, それぞれ神経刺激あるいは高K+刺激によるアセチルコリン(Ach)の誘発的放出を阻害する. しかし, この阻害の分子レベルでの機序は不明である. 本研究では, in vitro系におけるボツリヌス神経毒素とSynとの結合様式, 毒素のSyn内侵入およびSyn内での代謝応答を分子レベルで明らかにし, 神経伝達機構の解明に資することを目的とした. 1.ボツリヌス神経毒素とSynとの結合様式. 毒素は重鎖(分子量約9万)と軽鎖(分子量約5万)からなるが, その重鎖を介してSyn膜に結合する. この結合は温度に依存しないが, 0°Cでは可逆的であるが温度の上昇に伴い結合の可逆性は失われ, 37°Cでは結合時間の増加と共に, 結合物のクラスタリングが示唆された. この結合には, Syn膜上の各種のガングリオシドが協調的に働くが, 糖タンパク質毒素受容体の存在が光架橋剤の使用により確認された. 一方, 毒素のチロシン残基(1分子中に71モル)を3モル化学修餌するとSynとの結合能は著しく損なわれた. 2.ボツリヌス神経毒素のSyn内侵入. 毒素-Synの0°Cの結合物に抗重鎖Fabを添加すると毒素はSynから解離するが, 結合物を37°Cで孵置するとその時間経過と共に抗重鎖Fabによる毒素のSynからの解離は失なわれ, 毒素のSyn内侵入が示唆された. 一方, 抗軽鎖Fabは毒素をSynから解離せずに毒性を回復させることから毒素の作用発現には軽鎖が関与することが示唆された. 3.毒素のSyn内の代謝応答. 37°Cにおける毒素のAchの放出阻害にはlag timeが必要であるが, このlas timeの前半は前述の毒素のSyn内侵入に要する時間であり, その後半はAch放出阻害の最大発現に要する時間であることが示唆された. さらに, 毒素が膜タンパク質をADp-リボシル化することが判明したので, Ach放出阻害とこの反応との関連を示唆した.
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