研究概要 |
家畜における真菌症の日和見感染の側面を明らかにする目的で, 臨床的ならびに真菌学的検討, 免疫学的診断法の検討, および発症要因の検討を計画し, 昭和61〜62年度の2年間, 以下の研究を行った. 1)疫学的問題:これまで検索した症例ならびに我国における報告例を集約すると呼吸器疾患の原因としてアスペルギルス, ムコール, クリプトコックスなどが確認され, 消火器疾患では主にアスペルギルスとムコールが起因菌であった. さらにアスペルギルスによる牛の流産やカンジタによる乳房炎も認められた. これらの結果, 真菌症の発症要因の一つには動物の解剖学的特性に加えて, 飼育環境ないし飼育様式の問題も無視出来ないと考えられた. 2)臨床的ならびに真菌学的検討:猫のクリプトコックス症の1例で行った菌抗原の検索で, 血液および尿中に陽性所見が得られ, 本菌の感染は広く全身諸臓器に及ぶものと考えられた. また同時に抗真菌剤による治療を試みたところ, 治療経過に伴って抗原価は低下し, 本症の病態あるいは治療効果の判定に菌抗原の検索が有用であることが判明した. クリプトコックス症の原因菌であるCryptococcus neoformansはその莢膜の厚さの違いにより感染性の異なることが知られている. そこで, その厚さの異なる分芽胞子の微細構造を検討した. その結果, 莢膜の厚い胞子では薄い胞子に比較して透明層が明瞭で, 形質膜は屈曲に富み, ミトコンドリアや小胞体が豊富であった. また, 莢膜の厚い胞子には多形性の細胞質内膜構造がしばしば観察された. 3)免疫学的検討 : Cryptococcus neoformansの同一菌株で莢膜の厚い細胞と薄い細胞を作成し, それぞれに対する猫肺胞マクロファージの貧食殺菌作用について検討したところ, 肺胞マクロファージは莢膜の厚い細胞よりも薄い細胞を容易に貧食し, 殺菌するものと考えられた. また肺胞マクロファージは菌を貧食することでIL-1を産生する事が判った.
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