研究概要 |
動脈圧受容器反射における迷走神経性徐脈に対する前脳性および反射性抑制は、動物が環境変化に対応して生存するために必要な循環ホメオスターシス再調整機構の一つである。本年度はこれに関連した中枢機構と上行路、下行路の研究を行ない次の結果を得た。1.大動脈神経(ADN)による圧受容器反射性迷走神経性徐脈(ADN-VBr)を坐骨神経(ScN)および視床下部防御野(HDA)の電気刺激が強力に抑制することを確認し、その抑制性上行路および下行路の同定を行なった。a.ADN-VBrに対するScNからの抑制性上行路は両側性であり、脊髓で交叉するものの他、延髓で交叉するもの、両方で交叉するものがあること、脊髓では主として側索を通ることを明らかにした。b.ADN-VBrに対するHDAからの抑制性下行路は、同側性のものは内側前脳束を経て橋上部の傍腕核に到り、橋下部では外側網様体を通ることを明らかにした。反対側HDAからの下行路は脳幹レベルで交叉することも判明した。2.ADN-VBrに対する前脳性および末梢侵害入力性抑性の標的部位について次の知見を得た。a.Wall法を用いて、孤束核におけるADN終末の興奮性がScN,HDAの電気刺激により変化しないこと、従ってこれらによるADN-VBrの抑制がシナプス前性ではないことを明らかにした。b.孤束核および疑核周辺の迷走神経性徐脈発生点からADN刺激により惹起される電場電位を記録し、疑核周辺のそれが、ScN,HDA刺激により抑制されるのに反し、孤束核のそれは殆んど抑制されないことを見出した。c.さらに孤束核破壊後、迷走神経心臓枝電気刺激により疑核近傍の徐脈発生点に誘発される逆行性電場電位がScN,HDAにより抑制されることを明らかにした。以上の所見は、圧受容器反射における迷走神経性徐脈に対する前脳性抑制、反射性抑制の標的部位は圧受容器求心線維が投射する孤束核介在細胞ではなく、疑核の節前細胞であることを示す。
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