研究概要 |
迷走神経心臓枝(VCB)の遠心性活動は,中枢性および反射性に修飾される. 昭和61年度は,このうち外界の突発的変化(非周期性)に対応し,循環ホメオスターシス再調整に関与すると考えられる調節機序として防御野賦活および侵害刺激により惹起される圧受容器反射性迷走神経性徐脈の抑制に関与するニューロン機構を明らかにした. 昭和62年度は,VCBの周期性遠心性活動様式(心拍同期性,呼吸同期性,など)の起源につき解析を行う一方,同じく周期性入力をうけながら迷走神経とは鏡像的な活動様式を示す交感神経中枢との相互干渉作用を検討した. 実験にはクロラロースウレタン麻酔ラットを用いた. 結果.1.VCB活動の心拍同期性と順応現象の関連. 大動脈神経(ADN)のトレイン刺激による著明な迷走神経性徐脈は1Hz以上のくり返えし刺激頻度で著しく減弱すること(順応現象)を確認した. 一方,VCB活動を動脈圧波でトリガーし加算平均しても心拍同期性を認めないが,他側迷走神経心臓端の電気刺激,あるいは心室壁二発刺激により徐脈状態にすると,この心拍同期性が若干増強される傾向があることを確認した. これは,通常,VCBの心拍同期性は,順応現象によって消去され発現しにくいことを示唆している. 一方,脳室内にGABA拮抗剤であるビククリンを注入すると,この順応現象が消失することが判明した. これはVCB起始細胞の内因性抑制機構にGABAが関与するという新しい知見である. 2.VCB放電は呼息で増強されるが,これは両側迷走神経切断後も認められること,すなわち,この呼吸同期性は,呼吸中枢からVCB起始細胞への投射に起因することを知った. 3.交感神経性血管運動中枢である吻側延髄腹外側野の電気刺激が,ADN刺激による迷走神経性除脈を完全に抑制することを発見した. これは,鏡像的な活動様式を示す交感神経と迷走神経には,中枢性の干渉作用が存在することを示す新知見である.
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