1.顕微鏡下で遊離有毛細胞にパッチクランプを適用して行った研究 キンギョの聴器(小嚢)を剔出し、パパイン等の酵素を用いて各個の有毛細胞に分離し、パッチクランプ法を用い次の諸項目について調べた。 (1)細胞の側底部の膜のイオンチャネルの研究 細胞接触型のパッチクランプ法によって調べたところ、側底部の膜には内向き整流のKチャネルがよく発達し、その動作様式は心筋細胞の内向きKチャネルと類似しているが、それよりチャネル開閉速度が著しく大であることがわかった。次いで内側を外にむけたパッチクランプ法によってCa依存性Kチャネルの性状を調べ、このチャネルも開閉速度が他の細胞膜でみられるものより著しく大であること、チャネルの動作に必要とされるCaイオンをSrで代用出来ること、またチャネルに種々様式を異にする遮断効果が観察されることなどを見出した。 (2)細胞の刺激変換チャネルの研究 全細胞クランプ法のもとで膜電位を固定し、細胞の毛に与える屈曲刺激により生じる膜電流の変化を観察した。この実験は未だ手技に不完全な点があり、膜電流の変化が記録出来たのは僅少例に止まっている。目下鋭意検討を加えている段階である。 2.麻酔したキンギョについて行なう研究 従来聴神経線維からの細胞内記録は主として太いSI線維について行なわれ。細いS2線維からの細胞内記録は不完全になる場合が多かったが、キンギョの聴器を露出させる手術の術式や微小電極の形状を吟味することにより安定な記録がえられるようになった。その結果S2線維の間で良好な応答を示す音周波数に違いのあることが示唆される状況になっている。
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