本年度は、ウシガエル交感神経節のアドレナリンによる伝達物質放出の長期増強(Adr-LTP)の機序に関して、(1)生理的条件下でのAdr-LTPに関与するアドレナリンの起源と(2)シナプス前線維末端内Ca^<2+>濃度のアドレナリンによる変化を調べるのが当初の目的であった。しかしながら、実験進行の過程に於いて、Adr-LTPの機序としてのシナプス前末端内静止時Ca^<2+>上昇仮説の最大の根拠になった短期促進のCa^<2+>依存性をより厳密に確認する必要が生じ、この問題に関する実験を行い、以下の結果が得られた。従って(1)の問題は、次の研究計画に延期した。(2)の問題については、ある程度の実験技術の進歩が得られた。 1)摘出したウシガエル交感神経節細胞に細胞内微小電極法を応用し、低Ca^<2+>高Mg^<2+>液中で速い興奮性シナプス後電位(EPSP)を記録した。二つの連続刺激(50ms間隔)により発生した短期促進現象が、Ca^<2+>キレート剤であるQuin-2/AM(5μM)をシナプス前線維末端内に与えることにより顕著に抑制されること、また、細胞内Ca^<2+>を増加するA23187(10μM)により減少することから、短期促進現象が前のインパルスによる残存Ca^<2+>により起ることが証明された。更にこのことから、この現象をAdr-LTPの静止時Ca^<2+>上昇仮説の検証に使うことは正しいことが支持された。 2)シナプス前末端内Ca^<2+>の測定に適した細胞内Ca^<2+>濃度測定装置を独自の設計の基に制作し、シナプス前線維末端とシナプス後ニューロンの大きな容量/面積比を利用して、Ca^<2+>蛍光色素としてのFura-2/AMをシナプス前線維末端内に優先的に取込ませる工夫をした。しかしながら、シナプス前線維末端内Ca^<2+>の測定には到っていない。この実験も次の研究計画に引き継がれることになった。
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