研究概要 |
〔目的〕無重量環境下でのヒトの神経性適心の機序を解明することを本研究の目的とした. 昨年度は立位で頚までの段階的な水浸時には,水位の上昇に応じて筋交感神経活動の抑制されることを明らかにした. 本年度は比較的長時間の持続性の水浸時における交感神経活動の変化を検索した. 〔方法〕水浸法による実験的低重量下におけるヒトの筋交感神経活動を,循環動態の変化と共に観察した. 健康人の立位または椅坐位で頚まで最長150分間水浸し,筋交感神経活動,循環動態の各種パラメータ(心拍数,心拍出量,一回拍出量,血圧,下腿容積)及び血漿カテコールアミン濃度の変動を経時的に観察した. 筋交感神経活動は脛骨神経からタングステン微小電極を用いたニューログラム法により記録して解析した. 心拍出量及び一回拍出量はインピーダンス・プレチスモグラム法により,下腿容積はストレンゲージ・プレチスモグラム法により記録した. 血漿カテコールアミン濃度は高速液体クロマトグラフィー法により測定した. 〔結果〕首の高さまでの水浸直後には,筋交感神経活動が顕著に減少したが,その後30分までに徐々に回復し,30〜150分ではほぼ定常値を示した. しかし,150分後においても水浸前値よりも低値を示した. 同時に心拍数も減少したが,その減少の程度は筋交感神経活動よりも軽度であった. 心拍出量と一回拍出量は頚までの水浸直後に増加し,その増加は120分後まで持続した. 平均血圧は水浸直後から120分後まで軽度に上昇し,下腿容積は120分後まで時間経過と共に減少し続けた. 血漿カテコールアミン濃度は30〜120分の間,持続的に低下した. 〔結論〕水浸時の実験的低重量下では,頭部方向への体液移動に伴う心拍出量の増加を代償するために,筋交感神経活動が顕著に抑制される. この抑制は,水浸負荷の初期にとくに強く,約30分後にはある程度の順応を示すが,水浸負荷中,少なくとも150分間は抑制が持続する.
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