研究概要 |
小動物の摘出心房筋標本を用いて, 我々はin vitroに於いても経壁的に神経刺激をすることができる実験系を開発して, 末消自律神経による心筋支配様式を詳細に検討してきた. 心機能はアドレナリン作動性交感神経とコリン作動性副交感神経によって調節されているが, これに加え陽性変時変力効果を示す非アドレナリン非コリン作動性(NANC)神令の存在することを明らかにした. 従来, 心筋のアドレナリン作動性反応は 受容体を介するものと考えられていたが, 本研究では交感神令から遊離されたノルアドレナリンが受容体も刺激することを初めて証明した(2). 我々は又, NANC神経の伝達物質は新しい神経ペプチド(CGRP)であり(3), CGRP作動性のNANC神経は心血管系のみならず, 非血管平滑筋(例えば輸精管)にも存在し, 強い作用を示すことも明らかにしてきた(1), これらの事実はCGRP作動性神経が心血管系以外の組織でも何らかの役割を果たしていることを示唆のする. トウガラシの辛味成分であるカプサイシンは, 一部の知覚神経を特異的に刺激変性させるが, モルモットを予めカプサイシン処置しておくとCGRPを含む神経が選択的に消失し, NANC神経はに基く陽性変時変力反応も消失する(3). 興味深いことに, カプサイシンはin vitroの心房標本に適用すると, それ自体では心筋に直接作用しないが, NANC神経を刺激してCGRPを遊離して作用することが判明した(5), くり返し適用するとカプサイシンの作用は消失してしまう(タキフィラキシー)が, これはCGRPの枯渇に起因するものである. CGRPの陽性変時変力作用は, CGRPが特異的受容体に働き, 心筋のアデニルシクラーゼを活性化して細胞内cAMP濃度を上昇させることに基くものである(4). CGRPは冠血管に対して強力な拡張作用を示すが, この作用は従来知られている物質中では最強のものである. この作用も又血管平滑筋のcAMP濃度を高めることによる(6).
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