研究概要 |
シナプス小胞はシナプス前絡末に存在する細胞内小器官で神経伝達物質の貯蔵放出に与っており,その化学構成を分析することはシナプス伝達及びその可塑性の分子機構を解明するのに不可欠である. 61年度の本研究においてはモルモット大脳皮質よりシナプス小胞を精製し,これを免疫原として多数のモノクローナル抗体を作製した. その抗原分子をイムノブロット法で解析し,シナプス小胞に特異的な4種の蛋白質を見出して,それぞれ分子量に応じてSVP30,36,38,65と名づけた. 神経組識及びシナプス小胞画分について免疫電子顕微鏡観察により,これらのSVPはシナプス小胞に局在することが確かめられたが,本年度はこのシナプス小胞画分の免疫電顕法を検討し改良した. 共同研究者の内薗(岡崎生理研),西江(順天堂大生理)はシナプス小胞の形態を伝達物質の関係を追求しているが,抗SVP38抗体の結合を定量的に検討し,SVP38の存否はシナプス小胞の形態(円型かだ円形か)には関連せず,サイズにより異ることがわかった. SVP38については多数の抗体が得られたので,これらを用いてcDNAクローニングを開始したが,われわれと独立に38キロダルトン蛋白を見出した米国と西ドイツのグループが,続いてそのCDNAクローニングに成功したので,われわれの研究は中止した. 抗原分子の機能を探る一端として抗体を結合させるにはシナプス前終末内に注入する必要がある. これが可能と考えられるイカ巨大シナプスにおける実験を山岸(岡崎生理研)と行ったが,技術的難点のため成功しなかった. 最近,東田(金沢大)がニューロブラストーマ細胞を直接筋細胞に接解させてシナプスを作らせることに成功したので, この系を用いて実験する予定である. 抗SVP38抗体を用いて,水頭症ラッとHTX(順天堂大脳外科)と小頭症マウス(滋賀医大小児科)における脳形成不全の解析が行われている.
|