シナプス小胞はシナプス前終末に局在する細胞内小器官であり、神経伝達物質を貯蔵しその素量的放出に与っている。その化学的構成を明らかにすることはシナプス伝達及びその可塑性の分子機構を解明するのに不可欠である。最近、シナプス小胞特異蛋白質としてシナプシンIが発見され、その分子構造と性質が明らかになったが、それ以外のものは不明といってよい。本研究ではモノクローナル抗体を作製して、新たに千種のシナプス小胞特異蛋白質を同定し、その性質及び脳内分布を生化学的免疫組織学的に分析した。すなわち、西江らの方法に従ってモルモット大脳皮質よりシナプス小胞を精製し、これを免疫原としてモノクローナル抗体を作製した。シナプス小胞に特異的であることは各種神経組織の免疫組織化学、免疫電子顕微鏡観察及び精製シナプス小胞蛋白のウェスタンブロット解析により証明された。同解析により千種の蛋白質が同定され、分子量にもとずきSVP30、36、38、65と命名した。これらは生化学的解析により、シナプシンIが小胞膜に付着するのとは異なり、膜に組み込まれた膜蛋白と結論された。SVP65はカルシウム存在下でリン酸化されるリン酸化蛋白質であった。SVP38は本研究とほぼ同時に西ドイツ及び米国で発見されたシナプトフィシンまたはp38と同一分子と考えられる。SVP抗体の免疫組織化学はシナプスの分布や発達の研究にきわめて有用であり、小脳皮質と小脳核におけるシナプス発生の時間的ずれ、嗅覚系における特異分子発現とシナプス発達の相関、海馬及び大脳皮質における免疫染色強度とシナプス密度との定量的関係、末梢自律神経シナプスの変性、再生の経過につき知見が得られた。今後さらにSVP蛋白の生理役割を明らかにすることが必要である。また上記以外の脳の発生や可塑的変化の研究にこれらの抗体は有力な手段となる。
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