研究概要 |
イエバエの異常な性決定様式の増加とほぼ時を同じくして殺虫剤抵抗性が発達してきたので, 両者の関連性の有無を確かめ, またイエバエ集団の中での殺虫剤抗抵性遺伝子の増加を抑制する新しい方法を研究し, イエバエの有効な対策を樹立することを計画した. 昭和61年度には, 性決定様式に関して異常なイエバエの実態を調べ, また殺虫剤抵抗性の中でもとくにピレスロイド剤抵抗性が問題が大きいこと, これにはkdr遺伝子が関与していることを明らかにした. 昭和62年度には栃木県芳賀郡芳賀町の6ヶ所の畜舎(それぞれ牛,豚,鶏を飼育)にて10月12日に採集したイエバエを飼育,次世代の雌成虫についてピレスロイド剤抵抗性の調査を実施した. 方法はペルメトリンの局所微量滴下法により, 識別薬量0.5mgにて死亡しないものをピレスロイド剤抵抗性遺伝子kdrをホモに持つ個体と考えた. この結果から求めたkdr遺伝子の頻度は0.19ー0.59で, 畜舎により多少の差はあるが, 芳賀町全体にわたりkdr遺伝子はかなり高頻度に分布していることがわかった. つぎに, ピレスロイド剤抵抗性遺伝子kdrの頻度消長におよぼす要因を明らかにするため, 昭和61年10月から1年間計4回にわたり, 芳賀町の2畜舎からイエバエを採集し, ペルメトリンの局所微量滴下法により抵抗性を調べた. その結果, 畜舎へのピレスロイド剤の使用中止により, 短期間のうちにkdr遺伝子の頻度が著しく低下することがわかった. この頻度低下の要因として, 抵抗性のレベルの低い他のコロニーからのイエバエの移住,またはkdr遺伝子を持つ個体の適応度の低下によることが考えられる. 次年度は本研究の最終年にあたるので, これまでの成果を基礎として, もっとも問題の大きいピレスロイド剤抵抗性の遺伝子頻度の制御方法を中心に, 防除が因難になりつつあるイエバエの有効な対策を提示したい.
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