本研究は、自己の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)によって拘束されたT細胞機能をブロックする多数のモノクローナル抗体(抗Iat抗体・抗IーJ抗体)を用いて、適応分化によって規定される自己認識構造の表現型および構造を解析し、ついで、T細胞自己認識レセプター(TcR)を中心とした免疫応答の調節機構を明らかにすることを目的とした。放射線骨髄キメラマウスおよびクローン化T細胞株を駆使した解析から、以下の点が明らかにされた。 1.抗Iat抗体・抗IーJ抗体の認識するエピトープは、T細胞の成熟・分化する環境によってその表現が後天的に規定され、T細胞そのものの遺伝子型には影響されない。 2.IーJ分子は、MHCクラスII分子を認識するTcRαβ鎖のイディオタイプ決定基ではなく、TcR分子とは別の分子である。 3.IーJ分子をクローン化T細胞株から免疫化学的に同定することに成功した。IーJ分子は、クローン化T細胞株によってわずかな分子量の違いはあるが、42〜46kdの2本の糖タンパク鎖からなる84〜90kdの二量体分子であり、TcRαβ鎖とは異なる分子である。 4.TcRαβ鎖/T3複合体を介する特異的なT細胞活性化の初期細胞内シグナルは、IーJ分子を特異抗体で架橋することによって抑制される。非特異的T細胞活性化シグナルに対しては、IーJ分子は抑制的に作用しない。 これらの結果は、Iat/IーJ分子が、T細胞の成熟・分化する過程で、TcR/T3複合体によるT細胞増殖シグナルを調節している可能性を示唆している。Iat/IーJ分子の生体内でのリガンドは不明であるが、胸腺内でのT細胞のレパートリー形成に、Iat/IーJ分子が重要な役割を果たしていると考えられる。
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