研究概要 |
抗うつ薬投与後のラット脳β受容体の減少機構とセロトニン(5-HT)およびプロテインキナーゼの役割について情報伝達系の生化学的関連を検討しリン酸化反応の関与とその意義を考察した。ラット皮下に埋め込んだ浸透圧ポンプにより抗うつ薬を7-14日間持続的に投与した。浸透圧ポンプの効果は、ヒトより半減期が著しく短い抗うつ薬は1日1回投与や最終投与24時間後に屠殺する方法では慢性投与の効果を得られないことを示した。各種抗うつ薬慢性投与後の大脳皮質膜画分と細胞質画分ではプロテインキナーゼC(Cキナーゼ)活性に有意な変化を認めなかった。Cキナーゼの調節ユニットに結合する[^3H]phorbol-12、13、dibutyrate(PDBu)の結合特性を各種抗うつ薬長期投与のラット脳各部位の膜標品について調べたところ、colmipramine(CMI)、imipramine,mianserin14日間投与後の扁桃体膜標品で[^3H]PDBu結合部位の有意な増加を認めた。またCMI14日間投与後の扁桃体の細胞質画分のCキナーゼ活性は有意に増加した。扁桃体の[^3H]PDBu結合部位の増加はp-chlorophenylalanine処置および5-HT_2受容体、5-HT_1c受容体阻害薬で見られることから、シナブス間隙の5-HTの減少とイノシトールリン脂質代謝(IP)に共役した受容体阻害が関与する。したがって抗うつ薬長期投与後の[^3H]PDBu結合部位の増加は1P代謝回転の低下に対するCキナーゼの"up-regulation"を反映するものと考えられる。抗うつ薬で増加したCキナーゼがリン酸化する基質蛋白質の候補として、前シナプスではB-50(F1)蛋白、87K蛋白、tyrosine hydroxylaseなど遺伝物質の遊離や合成に関わる蛋白質が、また後シナプスではβ受容体、α1受容体、mACh受容体や抑制性GTP結合調節蛋白(Gi)など受容体・情報伝達系の調節に関わる蛋白質のリン酸化が考えられる。基質蛋白質の同定が今後の課題となる。また扁桃体に特異的な因子としてニューロペプタイドとの関連も検討している。
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