特異的で、かつ感度がすぐれたヒト心房性ナトリウム利尿ホルモンの放射免疫測定法を開発するとともに、主として肺癌を対象に研究を進めた。肺癌患者の心房性ナトリウム利尿ホルモンの血漿濃度を測定してみると、一部に高値を示す患者の存在することが明らかになった。そこで、手術または剖検時に肺癌組織を採取し、組織中の心房性ナトリウム利尿ホルモンの含量を調べてみた。そうすると、腺癌及び扁平上皮癌8例では正常肺組織と同様のレベルにあったが、小細胞癌13例のうち5例では、腫瘍組織中の心房性ナトリウム利尿ホルモンの含量は10ng/g以上であり、その1例では1μg/gに達した。次に、腫瘍組織中の心房性ナトリウム利尿ホルモンの性状を明らかにするため腫瘍抽出物を高速液体クロマトグラフィーで分離し、心房組織や血液中の心房性ナトリウム利尿ホルモンの分離パターンと比較してみた。その結果、心房組織抽出物の場合にはα-hANP(分子量 3.000)、β-hANP(6.000)、γ-hANP(14.000)の三つのピークが認められるのに対し、血漿中の心房性ナトリウム利尿ホルモンは主としてα-hANPであることが明らかになった。一方、腫瘍組織中の心房性ナトリウム利尿ホルモンは、α-hANPが主体をなすものの、そのほかに、より極性の低い領域に複数のピーク形成した。以上の事実から、肺小細胞癌の中には心房性ナトリウム利尿ホルモンを産生するものがあること、腫瘍組織中の心房性ナトリウム利尿ホルモンは心房組織とは異なったプロセッシングをうけることを結論した。
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