研究概要 |
甲状腺の機能がTSHによって調節されていることは周知の事実である。しかし甲状腺細胞の増殖に対するTSHの効果は一定していない。最近TSH以外の成長因子が甲状腺細胞の増殖やヨード代謝に影響を与えることが判明しつつある。我々は培養ブタ甲状腺細胞を用いてインスリン様成長因子であるIGF-Iの作用について検討した。ブタ甲状腺をディスパーセで処理し、F-12培地で単層培養をおこないIGFの細胞増殖,DNA合成,ヨード代謝に対する作用をみた。IGF-Iは生理的な濃度で甲状腺細胞のDNA合成,細胞増殖,RNA合成,蛋白合成を促進した。MSAやインスリンも同様な作用を示したがその力価はIGF-Iの1%以下であった。甲状腺細胞にはIGF-Iに特異的な受容体が存在し、MSAやインスリンは弱い親和性をもってIGF-Iに競合した。標識IGF-Iを用いたオートラジオグラフィーによって甲状腺細胞の受容体はタイプIのIGF-I受容体を有することが判った。DNA合成や細胞増殖に対してIGF-IとEGFの間には著明な相乘作用が認められたが、この作用は互の受容体を介するものではなかった。IGF-I受容体は他の細胞の場合と同様に、IGF-Iにより下方調節される。ブタ甲状腺のDNA合成に対してTSHは促進作用を示さなかった。培養甲状腺細胞とEGFを3日間反応させると、TSHによるヨードの取りこみやその有機化は完全に抑制されるがIGF-Iと共に培養した場合にはTSHに対するサイクリックAMP産生,ヨード取りこみ,ヨード有機化はいずれも影響されなかった。以上の結果から、ブタ甲状腺においてはTSHよりもIGF-Iが主要な増殖促進因子であると思われた。今后は他の成長因子について同様の検討を行なう予定である。更に他の内分泌組織についても各種成長因子の作用を検討する。
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